センターの研究プロジェクト

GSIキャラバン
市民的公共圏と多様化する歴史認識ーヨーロッパとアジアにおける記憶と和解

冷戦終結後のヨーロッパでは、第二次世界大戦の記憶と共産主義独裁の記憶が重なり合う形で新たな歴史認識が形成され、欧州統合の進展とも相俟って国際的な和解が進展した。他方、近年の右派ポピュリズムの広がりは、国際和解・国民融和の語りに疑問を投げかけ、想起すべき過去の公的記憶のあり方をめぐる合意形成は困難になりつつある。各国の歴史博物館を始め、テレビ番組、映画、歴史ゲーム、歴史アプリなど種々のメディアが提示する多様な歴史像も、歴史をめぐるマスターナラティヴの変容を促している。こうした状況の下、国家間の歴史認識の不一致・対立はいかに調整されていくのだろうか。

本プロジェクトを中心的に担うドイツ・ヨーロッパ研究センター(DESK)は、これまで「欧州研究プログラム」や「日独共同大学院プログラム」を実行しながら、市民的公共圏における歴史と記憶に関する研究に、主としてドイツ近現代史の観点から取り組んできた。本プロジェクトはこの成果を引き継ぎ、新たに日本史・韓国朝鮮史・東南アジア史・中国研究・博物館学・民俗学等とも連携し、ヨーロッパとアジアの市民的公共圏に見られる公的記憶をめぐる議論の展開と、国際和解に向けた合意形成の可能性にアプローチする。 従来の研究を振り返ると、記憶研究と和解研究にはそれぞれ多くの研究蓄積があるが、この両者を一体的にとらえて検討する研究は必ずしも多くない。本プロジェクトは、市民的公共圏における和解のための記憶・想起という観点から、記憶研究と和解研究の架橋を企図するものである。その方法としては、記憶論、市民的公共論、概念史、パブリック・ヒストリーなどの理論的基盤に立脚し、ヨーロッパとアジアの双方の事例をケーススタディとして取り上げながら、諸事例の比較と連関・連鎖を検討の対象とする。このことを通じて、ヨーロッパを中心に構築されてきた記憶と市民社会をめぐる議論をアジアの視点から問い直すとともに、アジアの歴史的経験を踏まえた新たな記憶論・市民社会論の構築を目指す。

ドイツ・ヨーロッパ研究センターの研究領域・教育領域に対応して、本プロジェクトではドイツの諸大学(ボン大学、ベルリン自由大学、ドレスデン工科大学、ライプツィヒ大学)をパートナー校とし、ドイツの学術的議論への接続とドイツにおけるキャラバン実施を通じた発信・意見交換を重視する。他方、ドイツ・ヨーロッパ研究センターは、ドイツ学術交流会(DAAD)が世界各国に設置するDAADセンターによる国際的なヨーロッパ研究ネットワークの一部を構成している。このネットワークの枠組みを活用し、キャラバンと併用することで、グローバルな視座から議論を展開し、研究成果を世界に発信することが可能になる。また、ドイツ・ヨーロッパ研究センターは、北京大学ドイツ研究センター(中国)及び中央大学校ドイツ・ヨーロッパ研究センター(韓国)と緊密な関係にあるため、両センターとの恒常的な学術交流の枠内で問題関心を共有し、持続的な緊張の続く東北アジアにおいて歴史と記憶にまつわる諸課題に取り組む学術ネットワークの構築にも寄与したい。本プロジェクトの成果は、英語による論集『国際和解とパブリック・ヒストリー―ヨーロッパとアジアにおける記憶と和解』として、2023年度に刊行される予定である。

研究会

関連プロジェクト

日独韓6大学プロジェクト「トランスナショナルな都市空間における和解研究――記憶と想起の場としての都市空間に着目して」

冷戦終結以降、とりわけドイツでは1990年の東西ドイツの統一後、国民国家や地域を単位とした記憶と想起の文化の枠組み内での自らの過去との取り組みが、新たな課題に直面してきた。国家間や社会間での和解プロセスがより一層重要な意味を持つようになる一方で、国民国家的な和解の語りへの疑問がますます大きくなった。最近では、保守的ナショナリストや極右主義勢力による運動が無視できない影響力を持つようになり、いかなる歴史的事実が集合的に想起されるべきかについての政治的社会的合意の成立が困難になってきている。こうした問題は、様々な背景を持つアクターが複雑に関係しあいながら、自他の過去解釈をめぐり激しく競合するグローバルでトランスナショナルな場としての都市空間において、より顕著な現象となっていることが想定される。本プロジェクトではこの仮説に基づき、記憶と想起の場としての都市空間における都市的な記憶と想起の文化の形態と政治、およびその20世紀から21世紀にかけての変容過程を、韓国中央大学校ドイツ・ヨーロッパ研究センター、ドイツからはボン大学、ライプツィヒ大学、ドレスデン工科大学、グライフスヴァルト大学と協力し、トランスナショナルな観点から学際的アプローチを通じて解明する。

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