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DAADセンター会議(ベルリン)

 

 DAADセンター会議が、ドイツ・ベルリンにて開催されました(2018年12月6日~9日)。今回のセンター会議は「Envisioning the Future: Zukunftsvisionen für Deutschland und Europa」をテーマとし、世界各国に設置されたドイツ・ヨーロッパ研究センターから関係者及び研究者が一堂に会し、活発な議論や意見交換が行われました。東京大学ドイツ・ヨーロッパ研究センター(DESK)からは、森井裕一氏(東京大学教授)、平松英人氏(DESK助教)、北岡志織氏(博士課程)が出席しました。

DAADセンター会議参加報告書

北岡志織(総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程・IGK所属)

報告者は2018年12月6日から9日にかけてドイツ・ベルリンで開催されたDAADセンター会議に参加し、若手研究者向けのポスターセッションにて発表の機会を持った。本会議は世界各地20か所に設置された研究センターの関係者及び研究者が集まり、時勢に合ったトピックについて議論し、研究成果を報告し合うための学術的な交流の場として二年に一度開催されている。東京大学ドイツ・ヨーロッパ研究センター(DESK)からは、森井裕一先生と平松英人先生、そして報告者が出席した。また、東京大学社会科学研究所の有田伸先生がクロージング・ディスカッションのスピーカーとして登壇した。以下会議の概要について報告する。

⑴会議のテーマと全体としての報告
Brexitの交渉の難航、AfDの躍進の継続とメルケル独首相の党首及び首相辞任表明という混乱の中で開催された今回の会議では、「Zukunftsvisionen für Deutschland und Europa」が会議の全体のテーマとして据えられた。移民難民問題とポピュリズムの台頭、過去との対峙、そして気候変動といった緊急の課題に重点がおかれ、それらの各テーマに関するプレゼンテーションはもちろんのこと、全員参加型のワークショップや、各テーマについてより密な議論と持続的な研究交流の出発の場としてのスタンディング・コミッティーも設けられた。
会議のサブタイトルとして「Interdisziplinäre Konferenz der DAAD-geförderten Zentren für Deutschland-und Europastudien」が掲げられていることからも明らかであるが、今回の会議では「領域横断」がとくに重視されたと言えよう。多くの参加研究者が、前回大会(ワシントンでの25周年センター会議)と比較する中で、今回の会議ではワークショップ、ディスカッションにより多くの時間が割かれていると指摘していたように、様々な領域の専門家がただ集まり、各々の研究発表をするという意味での「領域横断」にとどまらず、共有された問題に対する各々の専門的見地からの提言とより活発な議論を求めようとする会議の姿勢がうかがえた。つまり、発表者のみならず、すべての聴衆もよりアクティブな参加者として、ともに考え、意見することが求められた。
また報告者は、本会議に先駆けて開催された院生ワークショップにも参加した。そこでは[移民/統合・文学・文化/芸術/演劇・記憶・歴史・デジタル化/メディア・ヨーロッパ/EU・経済]とより細かくテーマが設定されており、各々の関心と専門に従って4~5名の小規模なグループに分かれて議論することとなった。報告者は、[文化/芸術/演劇]のグループに参加し、「芸術と暴力」という問題について提起し、他の参加者とともにそのテーマについて議論した。また各グループには一人ずつそのテーマを専門とする教授もモデレーター兼アドバイザーとして参加し、より深い議論が可能となった。

⑵ポスター発表
 若手研究者の研究概要の発表の場として設けられたポスターセクションにて報告者は博士論文のプロジェクトについて「Aufstieg des dokumentarischen Theater und die Darstellungsprobleme」のタイトルで発表した。報告者は今年の10月に韓国・ソウルで開催されたDAAD東アジアセンター会議においてドイツ演劇界の難民問題へのアンガージュマンの契機となる作品としてエルフリーデ・イェリネク原作Die Schutzbefohlenenを取り上げ、アイスキュロスによる嘆願劇Die Schutzbefehlenenのパロディとしてのテクスト及び、「本物の難民」が「プロの俳優」と並び舞台上で「嘆願」するというハンブルク・タリア劇場による上演の分析を通じて、イェリネクのテクストが提起した社会批判及び、上演によって新たに生み出される従来の演劇界の表象批判の要素について口頭発表した。今回の発表で扱ったトピックはその延長線上に位置する。
Die Schutzbefohlenenの上演が演劇の専門誌のみならず、あらゆるメディア媒体で取り上げられ、議論を巻き起こした後、後続の「難民演劇」がいかにDie Schutzbefohlenenの手法を取り入れ、新たな演劇ジャンルの一つとしての「難民演劇」が形成されてきたか、そしてそれに付随し生じる新たな表象の固定化の問題についてこれまでの研究成果及び、今後の研究指針について発表した。ここでは歴史や文学、政治学などあらゆる分野の研究者から研究手法に関する質問やコメントを受けることができ、今後の課題もより明確になった。また、同じ「難民演劇」というテーマに異なる視点、手法で取り組む若手研究者と出会い、互いの研究を将来的にいかに接続することができるかといった会話も弾んだ。このような、今後の研究協力に繋がるであろう出会いも、今回の会議における大きな成果の一つである。

⑶記憶の文化
 8日の午前に設定されたパラレルセッションの一つ、「Erinnerungskulturen im Wandel」の発表とディスカッションが報告者にとって印象的であったのでここに短く記したい。ここで行われた発表は3つ、それぞれの発表タイトルは「カッセルのドクメンタにおけるインスタレーション: 芸術と戦争のトポロジー」、「カストロフのフォルクスビューネと歴史の終焉?」「文化的祝祭とGDRと現代ドイツにおける国家的アイデンティティ」であった。
まず一つ目の発表は、爆撃で都市のほとんどが崩壊したカッセルで現代アートのフェスティバルが開かれ、そこで抽象的で解釈が難解である現代アートという手段を用いて戦争の記憶を呼び起こそうとする試みが持つ意味とは何であろうか、という問いに取り組むものである。また二つ目の発表は、長年フォルクスビューネの総監督を務め、昨年その職を退いた演出家フランク・カストロフを、単なる一劇場の総監督としてではなく、旧東ドイツ文化全体の象徴的存在として見ようとする記憶に関する発表である。そして三つ目の発表は、ケーテ・コルヴィッツの作品の持つ政治性・反戦争へのメッセージと、作者の意図に関わらず作品がいかにナチスのプロパガンダに利用されてきたか、そして現代の芸術と政治の問題についての発表である。
各々がそれぞれ全く異なるテーマと記憶に取り組みながらも、それは一体誰の記憶なのか、果たしてその記憶は誰によって何のために作られ、誰のために再び想起されているのかという問いは三つすべての発表に関わるものであり、報告者はその問題について質問し、他の聴衆とも議論を行った。

⑷閉会・2年後の会議へと繋ぐもの
閉会式としてのディスカッションでは再び気候変動が重要なトピックとして議論された。また、有田先生によるプレゼンテーションにて示された現代日本における非正規雇用の問題は、他国の研究者にはおそらく新鮮で特異な状況として映ったに違いない。しかし、AIをはじめとするテクノロジーの進化や移民など「安い」労働力の流入などで、常に変化し、先の見えない労働市場の現実を省みれば、このような「日本独特」の労働事情も、ヨーロッパにとって遠い他国の問題で留まるとは決して思えないものである。

今回の会議は全体として多くの緊急の問題がまず示され、そして参加者全員がそれについての問題と情報を共有し、議論し、そしてよりそれについて近い分野の専門家同士が出会い、今後の研究協力を見据えた交流の場が「準備」された会議であったと言えるだろう。報告者にとっても、自らの研究の課題のみならず、芸術や文学というより大きな「学問領域」と現代社会をつなぐ課題についても深く考え、他の研究者と問題を共有する良い機会となった。
最後に、このような貴重な機会を与えてくださったDAAD本部と東京大学ドイツ・ヨーロッパ研究センターに心からの感謝を申し上げ、報告の結びとさせていただきたい。

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