シンポジウム・研究会等の記録
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国際シンポジウム
文化間の対話からグローバル文化としての対話へ 文化の相違は紛争を招くだけなのか、それとも地域協力の可能性も秘めているのか

2007.12.03-04:日時
東京大学駒場キャンパスⅠ 数理科学研究科棟大講義室:会場
ベルリン日独センター〔jdzb〕:主催
ドイツ・ヨーロッパ研究センター:主催
在日本ドイツ大使館
EU議長国:協力
独立行政法人国際交流基金:助成
全日本空輸株式会社(ANA):協賛
ルフトハンザ航空:協賛
挨拶
西中村 浩(東京大学総合文化研究科副研究科長)
佐藤 宏美(ベルリン日独センター副事務総長)
ベルント・フィッシャー(在日本ドイツ大使館首席公使)
総合司会
川喜田敦子(東京大学、ドイツ・ヨーロッパ研究センター)
森井裕一(東京大学、ドイツ・ヨーロッパ研究センター)

ヨーロッパとアジアにおける文化および政治―課題とチャンス

小倉和夫(国際交流基金理事長)
ギュンター・プロイガー(Dr.、元国際連合ドイツ政府常駐代表)
司会
山脇 直司(東京大学)

成果調査セッション 文化間の対話―事例から得られた教訓

日本の事例 イスラーム世界との対話・その焦点と争点:日本は特別な役割を果たせるか
池内 恵(国際日本文化研究センター)
ドイツの事例
オットー・カルショイア(ベルリン自由大学)
司会
マルティン・エバーツ(在日本ドイツ大使館政務課長)

国際アジェンダ―将来的な協力領域Ⅰ
東アジアおよび東南アジア―文化間の対話の見通しおよび課題

地域協力および地域の安全保障のための対話および信頼醸成
アジア型モデルの機会
田中均(日本国際交流センター、東京大学公共政策大学院、元外務省政務担当審議官)
クラウディア・デーリッヒス(ヒルデスハイム大学)
コメンテーター
シャフィイ・アヌワル(イスラム教・多元主義国際センター事務長、ICIP)
司会
池内 恵(国際日本文化研究センター)

国際アジェンダ―将来的な協力領域Ⅱ
中近東――グローバル化の否定的側面

対立するコンセプトとしての「西」と「イスラム主義」
ジハード(聖戦)と統合のはざまでのイスラム教徒移民問題
戦略面への示唆
シャフィイ・アヌワル(イスラム教・多元主義国際センター事務長、ICIP)
山内昌之(東京大学)
司会
クラウディア・デーリッヒス(ヒルデスハイム大学)

総括セッション 文化間の対話からグローバル文化としての対話へ

文化間の対話およびその発展に、日本とヨーロッパはどのように貢献することができるか
司会
津守滋(東洋英和女学院大学)

2007年12月3日から4日にわたって、DESKでは、ベルリン日独センター(JDZB)、在日ドイツ大使館とともに、国際シンポジウム「文化間の対話からグローバル文化としての対話へ文化の相違は紛争を招くだけなのか、それとも地域協力の可能性も秘めているのか」を主催した。このシンポジウムはJDZBが中心となって企画されたシンポジウムであるが、哲学やイスラム研究を専門とする研究者、外務省の中枢で政策を担当してきた外交官、文化交流に携わってきた実務家など日独を代表するさまざまな参加者による対話と呼ぶには活発すぎる議論が展開された。

初日は、東京大学、JDZB、ドイツ大使館の代表者による挨拶ののち、山脇直司教授(東京大学)の司会のもと、小倉和夫(国際交流基金理事長)とギュンター・プロイガー(元ドイツ国連大使)の両氏が講演を行った。小倉氏は、自らの経験に基づく豊富な例を紹介しながら戦後日本の文化外交政策の歴史的な変遷を解説し、グローバル化が進行する中での文化外交のあり方が展望した。そのなかで、今日の文化外交は平和構築や人間の安全保障といった実践的かつ政治的な問題にもかかわりを持つようになっており、その点では、日本とドイツは更なる緊密な協力が必要なのではないかと提言した。続いて、プロイガー氏は、国連大使を務めた経験も踏まえて、冷戦後の国際政治の変化と今後の展望を示した。氏の言葉では、国際政治の根本的な変化とは「メッテルニヒの終焉」すなわち勢力均衡の時代から多極的な世界(Policentric World)への変化ということである。そのような多元的な世界において、平和構築や地球温暖化、テロ対策など国境を越えた課題が国連やG8などの多国間協力での重要な課題となり、国際的な対応が必要とされている。プロイガー氏はこのような変化を経験した国際政治において求められるのは多国間主義(Multilateralism)であり、ヨーロッパとドイツはその歴史的経験もあり、世界をその方向へと牽引していくことが求められていると論じた。プロイガー氏の講演は、冷戦後の国際政治の根本的変化、ヨーロッパの多国間による安定の文化、ドイツの危機的状況にある国連などの多国間国際機関における役割、国連の役割の変化、そして、アジアとヨーロッパが取り組むべきグローバル・ガバナンスにおける課題と、広範かつ包括的なテーマをカバーするものであった。小倉氏の講演と併せて刺激的な基調講演となり、翌日も含めた活発な議論への導入になった。

翌12月4日は、「成果調査セッション―日本とドイツ」、「国際アジェンダ―将来的な協力領域Ⅰ(東アジア・東南アジア)」、「国際アジェンダ――将来的な協力領域Ⅱ 中近東」、「総括セッション」と4つセッションが開かれ、非常に濃密な一日となった。

まず、「成果調査セッション」では、マルティン・エバーツ氏(ドイツ大使館)の司会のもと、池内恵准教授(国際日本文化研究センター)が、「イスラム世界との対話・その焦点と争点:日本は特別な役割を果たせるか」として日本の事例を、オットー・カルショイア教授(ベルリン自由大学)を欧州の事例について報告した。池内氏からは、欧州はこれまで域内で対話による和解を成功させ価値観を共有するようになったが、現在の世界が必要としているたとえばイスラム世界と対話を考えるとき、問題なのは価値観を共有していないと考えられる人々との対話であるとの見解を示した。さらに、我々は「誰」と「何」について対話するのかという根源的な問いかけをもう一度行う必要性を喚起し、また西欧とイスラム世界をつなぐ可能性をもつ日本の特異な位置やその潜在的な役割を指摘した。続いて、カルショア氏は欧州の状況について報告した。欧州は宗教の政治的対立について当事者として巻き込まれているために冷静に考えることが困難であるという状況を指摘し、欧州における宗教の政治的対立の歴史的・思想的背景について解説した。その中で、歴史からみた宗教の多元主義の難しさやキリスト教とイスラム教を例にしながら宗教の制度上の違いなどを指摘した。

次の「国際アジェンダ―将来的な協力領域Ⅰ(東アジア・東南アジア)」セッションでは、田中均氏(日本国際交流センター・シニアフェロー・元外務省政務担当審議官)が外交官としての経験を踏まえて、地域協力のアジア型モデルを模索する報告を行った。田中氏は外交の基本的な目的を「繁栄のための機会を最大化し、平和に対するリスクを最小化する」ものと捉え、そのために必要とされるアジアにおける地域協力についての展望を示した。繁栄の機会の最大化は、ルールに基づく自由貿易制度(WTOとも整合的でより領域を拡大した多角的経済連携協定)の構築によって図られるべきだとし、逆にリスクについては4つ、すなわち北朝鮮のもたらす戦争・核拡散の危険、民主主義でない中国の経済成長・軍事大国化に伴う不確実性の増大、経済格差・エネルギー問題・環境問題を含んだ経済リスク、WMD拡散・テロリズム・感染症・海賊行為など脱国家的な非伝統的安全保障の問題を挙げ、これらのリスクに対応すべく、六者協議や民主主義国間の連携、そして非伝統的安保に対応するための東アジア安全保障フォーラムといった地域協力の必要性を論じた。それらの制度化あるいは地域協力は欧州統合の初期と同様に、機能主義(共通の利益の追求)を最大限活用するのが効果的であるとの指摘もなされた。続いて、クラウディア・デーリッヒス教授(ヒルデスハイム大学)はアジアの多様かつ多層的な政治状況を解説していった。特に、民主化という基準で考えて時に、北朝鮮やミャンマーのような独裁国家から、権威主義、移行期国家、半民主主義、形式的な民主主義、そして日本と韓国のような定着した民主主義と、多様な政治制度の国々を内包し、また、文化的にも多民族・ 多宗教な地域であり、そのために紛争を抱えている国も多い。さらに、これらの国々の間で結ばれている協力関係(地域協力・地域間協力・二国間協力)も多層的で入り組んだ構造にある状況を解説した。このような多様性や多層性という特徴をもったアジアで市民社会も含めて対話を進めていくためには、政治面では民主主義と宗教との価値の折りをつけながら、富の公平の分配によって不満を抑える必要があり、また文化・教育面では初等教育から始まり高等教育、あるいは職場というレベルにいたるあらゆるレベルまで対話や協力を奨励することが望まれると論じた。

続く「国際アジェンダ――将来的な協力領域Ⅱ(中近東)」では、 シャフィイ・アヌワル氏((イスラム教・多元主義国際センター(ICIP)事務長)と山内昌之教授(東京大学)が報告を行った。山内氏はイスラム文化への深い見識に基づいて、中東の文化遺産保護の問題からグローバルな対話文化の可能性を探るものであった。偶像崇拝への態度の違いが、文化間対話の可能性を開くこともあれば、文化の破壊や略奪を招くこともあるという例を示した。その文脈で、イラク戦争における文化財の略奪に対するアメリカの姿勢を批判し、文化財の保護は石油資源の保護以上に将来の対話や信頼醸成に重要な役割を果たしうる可能性があると指摘した。さらには、第二次世界大戦中におけるアメリカによる中国や日本における文化財の略奪と保護についての例を挙げながら文化遺跡と対話との複雑な関係を紹介した。しばしば過激派によって語られるイスラム世界のいても大多数の様式ある人々は文化遺産を保存し続けている事実を指摘し講演は終えられた。続いて、シャフィイ・アヌワル氏は非イスラム諸国でのイスラムの問題について講演を行った。イスラム教徒としてその価値観について紹介し、西洋的価値観とイスラム倫理を融合させるようなアイデアを示した。その後、欧州とイスラムの社会がそれぞれ抱える問題を指摘した。西洋においては、風刺画を発端とした文化摩擦などを例に出しながら、イスラム・イメージの偏見にみちた過度な単純化である。イスラム諸国では、氏自身、イスラム過激派によって「イスラムの敵」と名指しされ脅迫されている状況であるが、そのような過激派の扇動が問題となっており、それに対する。進歩的・穏健派イスラム指導者が、その知的なコミットメント(民主主義、多元主義、人権)にもかかわらず、彼らはエリート的過ぎて一般市民に浸透していないという問題点を指摘し、彼のセンターが行っているイスラム諸国の穏健派指導者を養成するプログラムについて紹介した。

シンポジウムの最後は、津守滋教授(東洋英和女学院大学)の司会のもとで開かれた総括セッション「文化間の対話からグローバル文化としての対話へ」で幕を閉じた。二日間にわたったシンポジウムは最後のセッションまで活発な議論が展開され続けた。文化間・文明間の対話は純粋に文化的要因あるいは宗教的要因のみならず政治的・権力的要因が強くまた複雑に絡み合っているためにその成功が困難となっている。だからこそ国際社会は真剣にこの問題に取り組んでおり、また、シンポジウムで最後まで真摯に議論が続けられた。そのような議論は必ずしも明確な結論や解決策を提示するものではなかったかもしれない。それは、このシンポジウムが文化間の対話というそれ自体重要な課題を超越して、グローバルな対話文化を根付かせようとするという非常に野心的な試みであるために、「最終的には整然と形の整った成果は得られず、単純な「回答」も存在せず、「作業中(workin progress)」という結果が残されることは、シンポジウム開催前に自明だった」(M.エバーツ(ドイツ大使館))のかもしれない。しかし、この問題については性急な結論を求めることが重要なのではなく、むしろこのような知的営みを重ねることで「グローバルな対話文化」は醸成されていくのではないかと感じさせられた。DESKも学問の世界からこの難解な問題に取り組み、グローバルな対話文化を創出する一翼を担っていきたい。

河村弘祐(ドイツ・ヨーロッパ研究センター特任助教)

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