シンポジウム・研究会等の記録
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リュブリャナ大学(スロヴェニア)二教授講演会

2007.01.15:日時
東京大学・駒場キャンパスⅠ18号館コラボレーションルーム1:会場
ドイツ・ヨーロッパ研究センター:主催
Europeanisation of the Balkans
B. イェゼルニク(リュブリャナ大学文学部長・文化人類学)
日本語構文における南の階層モデルの確率論的解釈
A. ベケシュ(リュブリャナ大学文学部教授・日本語学)
司会
柴宜弘(総合文化研究科、ドイツ・ヨーロッパ研究センター執行委員)

2007年1月25日、スロヴェニアのリュブリャナ大学と東京大学大学院総合文化研究科・教養学部との間で学術交流協定が締結されたのを記念して、 リュブリャナ大学から招かれた2名の研究者による講演会が催された。

まずはじめにリュブリャナ大学文学部長も務めるイェゼルニク教授が、「Europeanisation of the Balkans」と題する研究報告を行った。 これはイェゼルニク教授の著書 Wild Europe: The Balkans Through the Gaze of Western Travellers(Saqi Books・2004)に基づく発表で、 17世紀から20世紀にバルカンを訪れた西欧人のバルカンに対する認識の変化を丹念に追った研究成果である。

バルカンは長年オスマン帝国の支配下にあったことで、その影響が様々な面で見受けられた。それは街のつくりや人々の行動様式、 そして文化にも反映されていた。しかし、19世紀から20世紀にかけて、バルカンでは急激な近代化が進行し、そのような伝統は失われていった。 この「バルカンのヨーロッパ化」の代償は極めて大きなもので、結果的に豊かなバルカンの歴史そのものが失われることになった。 特に皮肉なのは、今日の欧州が規範とする多文化主義や多様性に対する寛容が、当時の西欧人が驚くほどバルカンに根付いていたにも関わらず、 西欧化の過程を通してそれが破壊されてしまったことであったとイェゼルニク教授は論じる。

質疑応答では、サイードのオリエンタリズムになぞらえて、 社会的に構成された「バルカン」というイメージが存在する一方で、それを超えた「バルカンの本質」に当たるものが存在するとするなら、それは何なのか、といった質問がなされた。 第一次世界大戦の端緒となったサラエボ事件や1990年代以降続く民族紛争の結果、「バルカン」には暗いイメージが付きまとうが、 イェゼルニク教授の指摘は、そのような中で忘れ去られつつあるバルカンの豊穣な歴史の重要性を考えさせるものであり、 現代の政治や国際関係への示唆に富むものであった。

次に、ベケッシュ教授が「日本語構文における南の階層モデルの確率論的解釈」と題する報告を行った。これは、南不二男が提唱した階層モデルを、 豊富な話し言葉のデータを分析することで、新たに確率論的に解釈しようと試みるものであった。 南不二男が始めて階層モデルを提起したのは1964年のことであり、この発見は日本語学のみならず言語学全般における重要な功績であった。 その後、南の階層モデルを基にした研究が発表されてきた。ベケッシュ教授は、100万例に及ぶ文例に見られる単語同士の共起のパターンを分類し、 その共起確率を整理している。さらに、それをカイ二乗検定することによって、統計的有意性を検証している。このような分析により、 日本語構文の特徴をより正確に把握できるようになると論じた。

この報告に対して、データ作成の際の分類によって、分析結果が左右されている危険があるのではないか、という疑問がよせられた。 すなわち、ある特定分析結果が生まれるような分類が前もって行われてしまっている可能性があり、その場合、所謂「卵が先か、鶏が先か」 という議論に陥りかねないということである。ベケッシュ教授もその危険性を認めた上で、今後クラスター分析など、 より高度な統計手法にによる研究が発展する可能性も指摘した。

当日は、総合文化研究科の地域文化研究専攻や言語情報科学専攻の教員・学生を中心に20名超が集まり、研究報告の鋭い指摘とフロアとの活発な議論によって、 知的な刺激に富む場となった。

河村弘祐 (ドイツ・ヨーロッパ研究センター 特任助教)

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