シンポジウム等の記録

映画『北のともしび』
特別先行試写会・東志津監督記念特別対談

日時:2022年6月24日(金)17:00~19:30 (開場: 16:30~)
会場:東京大学駒場キャンパス|18号館ホール
使用言語:日本語
主催:東京大学ドイツ・ヨーロッパ研究センター(DESK)
共催:グローバル地域研究機構(IAGS)

  • 対談:

    東志津・石田勇治(東京大学教授)

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ポスター(PDFファイル)

  参加学生による感想①

 負の記憶が忘れられた時に人は過ちを繰り返す、というナレーションが印象に残りました。 この作品では、負の記憶そのもの(=ノイエンガンメ強制収容所での凄惨な出来事)が学べるだけでなく、 負の記憶と向き合い、保存しようとする人びとの様子が、客観的でありながらとても近いところから 映し出されており、心に響くものがありました。平和に慣れてしまっている今、そして平和が危うく なりつつある今だからこそ、多くの人に観てもらいたい作品であると感じました。
 対談では、監督が映画に込めた想いを知ることができ、有意義な時間を過ごすことができました。海外へ行くことの意義のひとつとして、自身が「異質な人・少数派」である状況に身を置くことは、人々が潜在的に持つ差別意識について考える上で重要だと感じました。また、アポなしで、しかもドイツ語がわからなくても撮影に向かい、素晴らしい作品を作られたということに感銘を受けました。言語を学んでから、準備をしてから、と行動を先延ばしにしがちなことを反省させられます。
 今回の特別試写会に参加したことで、1週間のハンブルク研修で何を学びたいか、自分の中で少し明確になった気がします。 ありがとうございました。 教養学部 前期課程2年 水田真美

  参加学生による感想②
 
 2022年6月24日、東京大学駒場キャンパスにて、映画『北のともしび』特別先行試写会および記念特別対談が開催された。新型コロナウイルス対策の観点より東京大学の関係者のみでの開催となった本イベントでは、映画『北のともしび』の上映後、東志津監督と、映画の監修を担当した東京大学大学院・石田勇治教授の対談が行われた。
 映画『北のともしび』は、ナチ・ドイツの時代、ハンブルク郊外にあったノイエンガンメ強制収容所で「結核の人体実験」に利用された20人の子どもたちの存在に焦点を当て、戦後の人々がどのように彼らと向き合っているかについて追ったドキュメンタリーである。さまざまな国と環境で生まれた5歳から12歳のユダヤ人の子どもたちはノイエンガンメ強制収容所に集められ、「人間の結核への免疫を調査する」という名目で、ナチ親衛隊の医師ハイスマイヤーによって生きた結核菌を投与された。この映画を通じて、犠牲となった子どもたちの存在を忘れないために活動する強制収容所跡の記念館のスタッフや、遺族の姿が描き出されている。
 試写会後の東監督との対談の中で、石田先生が、「ドイツ人だと反省の念が強くてこのような映画は作れないと思う」と話していたことが印象的であった。筆者がベルリンへ訪れた際に出会ったドイツ人の70代の男性は、筆者自身がナチ時代に興味があり、ザクセンハウゼン強制収容所を訪れようと思っていることを伝えると、怒った顔で「そんなことを学ぶのはやめなさい」と言った。この男性の奥様はイタリア人であったが、男性に対して「せっかくドイツまで来てくれたのに、学びの機会を奪ってはならない」と言って強制収容所へ行くよう促してくれた。後日、男性からは、「『戦争でのドイツの負の歴史』を背負い続けてきたからこそ、『ナチは恥ずべきこと』と強く認識していて、できる限り掘り起こされたくない事実だった」と謝罪のメールが来た。この出来事を対談から思い出し、ドイツ人とその他の国の人の感覚の違いを強く実感した。
 この映画には印象深いシーンが多い。20人の子どものうちの1人の兄弟で、アウシュヴィッツを生き抜いたイザクさんは、自らの腕に残る囚人番号について、「この入れ墨は恥ずべきものではない。恥ずべきは入れた側であって、入れられた側は何も恥ずべきではない」と劇中で述べている。あの時代と環境を経験したからこそ、この記憶を絶対に後世に伝えなければならないというイザクさんの覚悟と責任の重みが十二分に伝わってくる印象的なシーンであり、イザクさんの言葉が非常に力強く響いた。
 強制収容所での生活を実際に体験した「生の記憶」を持つ人が少なくなっていく中で、日常的な学びの機会として、ホロコーストの生存者から直接話を聞くことができる場が提供されていることは非常に貴重なことである。ナチ・ドイツの時代の悲劇を繰り返さないためにこの「生の記憶」を後の世代に語り継いでいかなければならないという教訓をこの映画から得ると共に、映画「北のともしび」自体が後世にナチ・ドイツで起こった惨事を語るための大きな役目を果たしていると感じた。 地域文化研究専攻 修士課程1年 河村さくら