シンポジウム等の記録
シンポジウム
ローマ条約調印から50年―EUはヨーロッパをどう変えたのか
日時:2007.11.30
会場:東京大学駒場キャンパス|学際交流棟 学際交流ホール
主催:ドイツ・ヨーロッパ研究センター
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ドイツと欧州統合
川村陶子(成蹊大学)
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フランスと欧州統合
吉田徹(北海道大学)
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北欧諸国と欧州統合
五月女律子(北九州市立大学
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討論
森井裕一(東京大学ドイツ・ヨーロッパ研究センター)
正躰朝香(四天王寺国際仏教大学)
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2007年は、ローマ条約が調印されて50周年という節目の年であった。これを受けて、2007年11月30日、東京大学ドイツ=ヨーロッパ研究センター主催のもと、「ローマ条約調印から50年―EUはヨーロッパをどう変えたか」というテーマで、シンポジウムが開催された。シンポジウムでは、ドイツ、フランス、北欧諸国の政治に精通した研究者が報告者として招かれ、ヨーロッパ統合と各国政治の関係について興味深い議論がなされた。
ドイツに関しては、川村陶子氏(成蹊大学)が報告を行った。氏によれば、20世紀前半のドイツは帝国主義とナショナリズム、また敗戦の結果としての国家分裂によって特徴付けられていたが、1957年以後は、国際的信頼を回復することを目標とし、ヨーロッパ統合に積極的に関与するようになり、ナショナリズムからヨーロッパ主義へと移行した。氏はまた、戦後連邦共和国が継承した国家分裂という負の遺産、また分権的国家体制が、ヨーロッパ統合を推進するうえでは、ドイツにとってむしろメリットとなった、とも述べた。そしてヨーロッパ主義の反面、他者に対して閉鎖的になっている部分もあり、ローマ条約調印以来ドイツは変化したか、という問題にはJain(JaとNein)と慎重に答えるべきであるとした。非常に興味深い指摘であったように思われる。
フランスについては、吉田徹氏(北海道大学)が「機会」と「拘束」というキーワードを用い報告を行った。フランスのヨーロッパ統合に対する姿勢に関しては、統合を率先して影響力を確保しようとする側面と、統合による主権喪失を懸念する側面が混在しており、1950年代以来一貫してブレーキとアクセルとの相互反復が見られた、ということである。フランスのヨーロッパ統合政策におけるこのような葛藤は、1980年代におけるEMS残留のための一国社会主義放棄という場面に顕著に現れているといえるだろう。上記のようにヨーロッパに対するフランスの躁鬱病的姿勢は、統合の初期から連綿と継続しているものであり、この点で欧州統合とフランスの関係性はローマ条約調印以来不変であると結論できる、ということであった。
北欧諸国に関しては、五月女律子氏(北九州市立大学)が報告を行った。五月女氏は、北欧諸国はヨーロッパ統合の原加盟国ではなく、1990年代になってやっと加盟を果たしたのであり、ヨーロッパ統合に対する両義的な姿勢が見て取れる、と述べた。北欧諸国にとって、経済的見地からするとヨーロッパ統合にコミットすることが不可欠となる。しかし、高水準の福祉国家である北欧諸国は、社会福祉、男女平等、環境保護などの分野においては、EUが策定する基準を適用されることを敬遠している、ということである。この事実が、北欧諸国について「reluctant Europeans」という用語が使用される所以となっている。また、他国同様、北欧諸国においても、ヨーロッパ統合に対する姿勢においてエリートと大衆の間には非常に深い溝があるということ、そして移民規制を唱える政党が躍進しつつあることなどが言及された。
報告の後、正躰朝香(四天王寺国際仏教大学)、森井裕一(東京大学)の両氏によってコメントがなされ、またフロアからも、当時混迷を極めつつあったベルギーの政治状況や、2007年にフランス大統領となったサルコジの地中海諸国に対する政策などについて質問がされるなど、活発な議論が行われた。
近年、欧州各国の指導者たちは、統合の必要性について国民を説得する言説を失っているように思われる。2005年の仏・蘭両国における欧州憲法条約否決はそれを露呈することとなった。ヨーロッパの「改革条約」は主として議会批准という手続きで採択されようとしているが、この先ヨーロッパの指導者がどのようにヨーロッパ統合の必要性を国民たちに訴えていくのか。ヨーロッパ政治からは当分目が離せない状況が継続しそうである。
半田恭明(東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻/欧州研究プログラム)