シンポジウム等の記録

Mario Telo教授講演会

日時:2006.10.27
会場:東京大学・駒場キャンパス|18号館コラボレーションルーム1
主催:ドイツ・ヨーロッパ研究センター

  • 欧州憲法:3つのモデル

    Mario Telo(ブリュッセル自由大学教授)

    司会

    植田隆子(ドイツ・ヨーロッパ研究センター特任教授)

  • xxxxxx
  • xxxxxx
  • xxxxxx

2006年10月27日、ブリュッセル自由大学欧州研究所学長のマリオ・テロ教授をお迎えして、18号館4階のコラボレーションルーム1にて 「欧州憲法:4つのモデル」という題名の講演が行われた。講演の中でテロ教授はまず、現在の欧州憲法がその批准過程において抱える問題について 指摘し、続いて欧州憲法の4つのモデルについて概念整理を行った。それによると、欧州憲法の捉え方には次の4つがあるという。 第一の捉え方は、古典的な連邦及び中央集権的な憲法という意味での捉え方であり、第二は、欧州諸国の自律性を重視した連合(con-federal)的な 意味での捉え方である。第三は、2004年に採択された『欧州憲法条約』そのものを欧州憲法として捉える見方であり、そして第四は、 EU条約の実践的かつ漸進的な『立憲化(constitutionalization)』のプロセスとしてこれを捉える見方である。

まず、連邦主義(federalism)と連合主義(confederalism)の相違について、テロ教授は次のような整理を行った。 連邦主義はモンテスキューやカントら欧州の思想家の他に、米国のハミルトンの思想などにも影響を受けて形成された欧州統合の伝統の一つである。これは20世紀初頭にはクーデンホーフ・ カレルギー伯の汎欧州主義の形成などに影響を与えたが、具体的な欧州統合のモメンタムに影響を与えたのはWWII以降であった。 連邦主義は、欧州石炭鉄鋼共同体やローマ条約における超国家主義、そして2001年の欧州憲法条約の策定を目指したラーケン宣言などに影響を与え、 欧州統合を支える主要な理念の一つとなっている。次に連合主義であるが、これはチャーチルやド=ゴールらの欧州統合のアイデアに基礎を置き、 1974年の欧州理事会の創設に代表される国家主権重視の考え方である。 この考え方では、各国閣僚による理事会に立法権限を持たせることにより、統合体の超国家性を抑制することを主眼としている。

テロ教授によれば、2000年から2005年にかけての欧州憲法へ向けたモメンタムには、これら2つの伝統が同居していたという。 2004年に採択された欧州憲法条約は連邦条約ではなく、形式上は国家条約に過ぎない。条約第一条第一項は「連邦」という言葉の代わりに 「共同体主義」という言葉を用いているし、第四十八条はこの条約の全ての加盟国による批准を求めている。尤も、欧州議会の共同決定を通じて 欧州主義的な民主主義の要素は強化されているし、加重特定多数決による意志決定の簡素化の試みも行われている。しかしながら、 この憲法条約は16ヶ国により既に批准されながらも、フランスとオランダの二国が批准に失敗したことによって、現在その批准プロセスは 停滞を余儀なくされている。このような停滞から抜け出す方法はあるのだろうか? テロ教授は、次の5つの可能性を具体的に挙げる。第一に、補完的な宣言を伴う欧州議会による憲法条約の擁護が行われるかもしれない。 第二に、フランスのサルコジ内相が主張するような「ミニ条約」による解決があり得るかもしれない。 第三に、欧州委員会が主導的な役割を果たすかもしれない。第四に、2007年に欧州理事会の議長国となるドイツとポルトガルの指導力に期待できるかもしれない。 そして最後に、フェルホフシュタットとナポリターノが言う「やる気のある国家間による緊密な協力」によりこの問題は解決されるかもしれない。 国となるドイツとポルトガルの指導力に期待できるかもしれない。 そして最後に、フェルホフシュタットとナポリターノが言う「やる気のある国家間による緊密な協力」によりこの問題は解決されるかもしれない。国となるドイツとポルトガルの指導力に期待できるかもしれない。 そして最後に、フェルホフシュタットとナポリターノが言う「やる気のある国家間による緊密な協力」によりこの問題は解決されるかもしれない。

しかしながら、テロ教授が最も強調するのは、欧州憲法の第四の捉え方である「立憲化のプロセス」としてこれを捉える見方である。 例えば、加盟国とEUは、EU法の国内法に対する「優位原則」や「直接効果」のように、政策の競争力を長期間かけて共有させてきた。 さらにEU条約の第六条及び第七条には民主的なコンディショナリティと人権についての規定が存在するが、これも長期間の中で成立してきたものである。 ジョセフ・ヴァイラーはこれを憲法主義を伴わない立憲と呼んでいるが、たとえ一時的には憲法条約の採択に関する問題が発生したとしても、 長期的な視点に立てば、憲法条約に盛り込まれた規定は自然に加盟国の実践の中に反映されていくのではなかろうか。 EC/EUの存在が1945年から2005年にかけて加盟国内における民主主義の形成に重要な役割を果たしたように、テロ教授はたとえ一時的な憲法採択プロセスの停滞があったとしても、 それが必ずしも長期的な欧州統合の破綻に繋がるものではないと考えている。

結論として、テロ教授は次の二点を述べた。まず、EUは「形成されつつある連邦国家」というよりは、「国家間の連邦」として捉えた方がより実態に即している。 欧州憲法条約は連邦主義と連合主義の合成物であり、連邦主義の影響は強いものの、主権国家の存在も依然として重要である。第二に、EUとは加盟国の国家主権の自己的な抑制、 制度的なスピル・オーバー、脱国家的な社会経済的な利益、目的、共通のアイデンティティ感覚の収斂などに基づいた、地域的な協調の制度システムである。

講演はテロ教授、本学教授と学生の他、外部から来られた方なども含め総勢15名程度で行われた。講演の後にはテロ教授とフロアとの間で活発な質疑応答が行われた。

福田潤一(東京大学大学院総合文化研究科 博士課程)