シンポジウム等の記録

欧州和解ワークショップ
植民地支配をめぐる歴史・記憶・法の攻防

日時:2006.05.12
会場:東京大学・駒場キャンパス|18号館コラボレーションルーム3
主催:ドイツ・ヨーロッパ研究センター

  • 植民地支配をめぐる歴史・記憶・法の攻防―フランスでの昨今の論争から―

    松沼美穂(福岡女子大学)

    司会

    石田勇治(ドイツ・ヨーロッパ研究センター執行委員長)

2006年5月12日、「植民地支配をめぐる歴史・記憶・法の攻防―フランスでの昨今の論争から―」と題された研究報告が駒場にて行われた。 発表者はヴィシー政権期を中心とするフランス植民地史の研究者である松沼美穂氏(福岡県立女子大学)だ。かつて多くの植民地を有していたフランスにおいて 「過去の克服」が極めて重大な問題であることは周知の通りだが、近年では特にアルジェリアの植民地化をめぐって活発な論争が繰り広げられている。 今回の報告は、ここ一年ほどの議論を中心として植民地主義の記憶の問題について詳細に論じるものだった。

2005年2月23日に公布された「フランス人帰還者のための、国の承認および国家的貢献に関する法」は、アルジェリアの独立に伴ってフランスに引き揚げた植民者たちに対して、 その歴史的業績や苦悩について承認を与えようとするものだ。ここで問題になったのが第4条「学校教育課程はとりわけ、 海外領土なかんずく北アフリカにおけるフランスの存在の肯定的な役割を承認し、これらの領土出身の仏軍兵士の歴史と犠牲に対し、 彼らの権利にみあう卓越した地位を与える。」との文言である。植民地主義に一定の「肯定的な役割」を見る思考はフランスにおいていまだ根深いものがあるのだが、 さすがにこのような法制化に対しては速やかな反駁がなされた。「公認の歴史」を制定することや植民地支配の罪科を否定する欺瞞への抗議が歴史家や社会党から噴出し、 2006年1月25日についに廃止措置が決定された。

加えて近年注目される「記憶の場」の建設や新しい世代の動静が論じられ、 最後に多くの聴講者によってドイツや日本との比較のパースペクティヴの中で熱心な質問が行われた。

鵜戸聡(東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程)